心理学 日常心理

行列に並ぶのは人気が好きだからではない

2021年2月22日

日本人は「行列が好きだ」と言われます。

けれど、行列に並ぶのは日本人だけではありません。海外でも、何もない場所にひとりが立っていると、その後ろへ人が集まり、いつのまにか列ができることがあります。

考えてみれば、少しおかしな光景です。

先頭に何があるのか、だれも知らない。それでも、人が並んでいるというだけで、「何かあるのだろう」と思ってしまう。

人は、行列そのものが好きなのではないのかもしれません。

行列の向こうにある、「ここなら大きく外れなさそう」という安心が好きなのです。

行列は他人の選択履歴です

知らない街で、昼ごはんの店を探しているとします。

すぐに入れる店と、数人が並んでいる店がある。本来なら、空いている店のほうが楽です。待たずに済みますし、時間も減りません。

それでも、並んでいる店が気になります。

「あの人たちが選んでいるなら、おいしいのかもしれない」

行列は、店の前に置かれた看板のようなものです。ただし、そこに書かれているのはメニューではありません。

「すでに何人かが選びました」という、他人の選択履歴です。

メニューを比べる。口コミを調べる。値段を見る。失敗したときのことを考える。

本当は、店をひとつ選ぶだけでも、頭の中ではいくつもの作業が起きています。行列は、その手間を少しだけ引き受けてくれます。

だから、仕事帰りで疲れているときや、旅行先で外したくないときほど、行列は頼もしく見えます。

「みんなが選んでいる」は強い

多くの人が選んでいるものを、実際よりよく感じることがあります。これは、バンドワゴン効果や社会的証明と呼ばれる心理です。

難しい言葉に聞こえますが、やっていることは身近です。

SNSで何度も見た店に行列ができていると、「やっぱり人気なんだ」と思う。限定商品に人が集まっていると、「いま買わないと損かもしれない」と感じる。

人は、自分だけでは正解がわからないとき、周囲の行動を手がかりにします。

それは、悪いことではありません。

すべてを自分で調べ、すべてを自分だけで決めるのは、なかなかたいへんです。口コミも、ランキングも、友人のおすすめも、少しずつ他人の判断を借りています。

行列も、そのひとつです。

ただ、人気があることと、自分に合うことは別です。

行列は「多くの人が選んだ」ことは教えてくれますが、「あなたも満足する」とまでは言ってくれません。

並んだあと、抜けにくくなる理由

行列の心理は、並ぶ前だけでは終わりません。

最初は軽い気持ちでも、10分、20分と待つうちに、だんだん抜けにくくなります。

「ここまで待ったのだから」

「いま抜けたら、時間が無駄になる」

「あと少しなら待ったほうがいい」

これが、サンクコスト効果です。

すでに使った時間を惜しむあまり、これから使う時間まで差し出してしまう。

けれど、待った20分は、抜けても並びつづけても戻ってきません。考えるべきなのは、過ぎた20分ではなく、ここから先の30分を使いたいかです。

さらに、長く並んだものが期待ほどではなかったとき、人は「まあ、並んだ経験も含めればよかった」と考えることがあります。

それも自然なことです。自分の選択を、むだだったと思いたくないからです。

行列は、並ぶ前には期待をつくり、並んでいる間は抜けにくくし、並んだあとには選択を正当化させます。

なかなか働き者です。

疲れている日は行列が答えに見える

同じ人でも、いつも行列に弱いわけではありません。

疲れている日。空腹の日。選択肢が多すぎる場所。旅行やデートのように、失敗したくない場面。

そんなとき、人は細かく比べるより、わかりやすい手がかりに頼りたくなります。

行列は、目で見える答えです。

文章を読む必要もない。数字を比べる必要もない。ただ人が並んでいる。それだけで、「ここでいいかもしれない」と思わせます。

人間は、怠けているのではありません。

毎日の判断で、少し疲れているのです。

並ぶ前に、三つだけ考える

行列に並ぶこと自体は、悪くありません。

大事なのは、行列を判断材料として使っているのか、行列に判断を預けているのかです。

迷ったときは、三つだけ考えてみます。

  1. 行列がなくても、選びたいか。
  2. 待ち時間まで含めて、満足できそうか。
  3. 途中で抜けても、損ではないと思えるか。

行列がなくても欲しいなら、たぶん自分の気持ちです。

待ち時間も含めて楽しめるなら、並ぶ時間も体験になります。

途中で「ちがうな」と思ったら、抜けてもかまいません。それは失敗ではなく、状況を見て判断を更新しただけです。

人は行列が好きなのではなく、安心して選べる感じが好きなのだと思います。

行列の先に何があるかよりも、自分がなぜそこへ並ぼうとしているのか。

たまに、そのことを考えてみると、少しだけ自分の選び方が見えてきます。

  • この記事を書いた人

木束 奏揣

執筆領域 日常心理 ストレスとセルフケア 睡眠・休養 人間関係の心理 行動習慣とお金の心理 執筆方針 断定的な診断ではなく、産業カウンセラーとして読者が自分の状態を整理し、必要に応じて相談・受診・距離の取り方を選べるように書いています。 参考にする情報源 公的機関、医療系データベース、心理学・行動科学の研究、専門機関の公開情報を優先して確認します。 注意事項 記事は一般的な情報提供と日常のなぜ?の解消を目的としており、診断や治療の代替ではありません。

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