在宅勤務の心理的な疲弊については、多くのことが書かれてきました。
特に「zoom疲れ」という言葉は、今や多くの人が知っている言葉であり、経験でもあるでしょう。
しかし、PNAS誌に掲載された新しい研究によると、ビデオチャットの疲弊は、その危険性の1つに過ぎない可能性があります。
心を持つ度合いを評価
人は生身の人間よりも画像で見る人間の方が「心」を感じにくいこと、そして、画像に映る画像の人間ではさらに感じにくいことがわかりました。
ブリティッシュコロンビア大学のパリス ・ウィル教授らは、次のように書いています。
「心の知覚が道徳的判断を支えることを考えると、今回の発見は、描かれた人物は、抽象度の高さによって、より大きな、あるいはより小さな倫理的配慮を受けることを示唆している。」
生き物やモノが心を持つ度合いを評価するとき、人は「経験」と「代理性」の2つの要素で判断しています。
「心の経験」とは、例えば痛みや嬉しさといった意識的な感情のことで、経験値が高いと判断された動物は、一般的に本質的な道徳的価値も高いと判断されます。
一方「代理性」とは、積極的に何かをする能力、つまり行動すること、出来事の成り行きに影響を与えることを指します。
ウィル教授たちは、オンラインとラボを使った一連の実験で、ある人物を生で見た場合と、写真で見た場合と、写真の画像で見た場合とが、その人物の経験値や代理性、現実性に対する参加者の判断にどう影響するかを調べました。
研究内容
例えば、ある実験では、参加者の1番目グループが、学生ボランティアの生の顔と、別のボランティアの顔の実物大の写真を比較し、2番目のグループは、一方のボランティアの顔が写った写真と、もう一方のボランティアの顔の写真(この画像の顔は両方とも同じ大きさ)を見て、比較しました。
その結果、抽象度が高いほど、「経験」「代理性」「現実性」の判断が低くなることがわかりました。
ある実験では、古典的な「独裁者ゲーム」の参加者が、画像の中に顔が見える相手には、画像の中に顔が見える相手よりも有意に多くのお金を割り当てるという、行動への影響も確認されました。
「絵と現実で心の知覚が異なることは、驚くべきことではないかもしれない」と研究者は書いています。
「もっと驚くべきことは、心の知覚が現実と絵の間で異なることです。」
研究チームはこれを、古代ギリシャ神話のゴルゴンにちなんで「メデューサ効果」と名付けました。
研究チームが指摘するように、過去10年間(特に過去2年間の大流行期)、対面でのコミュニケーションからオンラインでのコミュニケーションへと大きく変化しています。
このため、抽象度が明らかに変化しているのです。
研究対象はすべて静的な顔であるため、ビデオチャットのような顔画像の動きが心の認知にどのような影響を与えるかを知ることは困難です。
研究者らは、裁判における証拠写真、オンラインレッスンで教師が提示する視覚的資料、サイバーいじめっ子たちが共有する被害者の写真などを挙げて、これらの特定の結果が直接適用できる文脈が他にもあることを指摘しています。
「これらすべての場面で、結果は他人の心に対する感受性に左右されます。」
将来的には、メデューサ効果に対する感受性の個人差についても研究されるかもしれません。
しかし、今のところ、この研究は、オンラインと現実の世界の相互作用について慎重になるべき新たな理由を明確に示唆しています。
まとめ
人を直接見るのではなく、イメージで見ることが、その人の「心」の認識や倫理的配慮の低下につながることを示唆する新たな研究結果が発表されました。
この研究では、イメージの画像を見るような抽象度が高いほど、経験、主体性、実在性の判断が低くなることがわかりました。
この現象は「メデューサ効果」と呼ばれ、オンライン交流、仮想裁判、オンライン教育、ネットいじめなどに影響を与えます。
対面からオンライン交流への移行は、他人の心に対する感受性喪失の懸念があります。
この効果に対する感受性の個人差を理解するには、さらなる調査が必要で、今回の発見は、オンラインと現実世界の相互作用に注意を払う必要性を強調しています。