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人はなぜ感情に流されるのか?|感情は「生き残るため」の強力なツール

まず、感情は単なる気分ではありません。

人が生きていく上で非常に重要な役割を果たしてきました。

たとえば、危険な状況で「恐怖」を感じるから逃げることができますし、大切な人を「愛しい」と感じるから守ろうとします。

このように、感情は私たちが素早く判断し、行動するための「信号」のようなものです。

感情に流される脳のメカニズム

私たちの脳には、感情に関わる「古い脳」と、理性や論理的な思考を司る「新しい脳(理性的な脳)」があります。

簡単に言うと、脳の中には「すぐに動く感情チーム」と「じっくり考える理性チーム」がいます。

緊急事態や強い感情が起こると、感情チームが「とにかく動け!」と号令をかけ、理性チームの意見を聞かずに突っ走ってしまう傾向が強くなります。

古い脳(感情の司令塔:扁桃体など)

この部分は、危険を察知したり、強い感情を素早く生み出したりする役割があります。

例えば、急に目の前にヘビが現れたら、考えるよりも先に「怖い!」と感じて体が勝手に動きますよね。

これは「扁桃体(へんとうたい)」という部分が、理性的な判断をする「新しい脳」よりも先に反応してしまう現象で、「扁桃体ハイジャック」とも呼ばれます。

感情に強く流されるとき、この古い脳が一時的に主導権を握っている状態です。

新しい脳(理性の司令塔:前頭前野など)

この部分は、物事を論理的に考えたり、感情をコントロールしたりする役割があります。

しかし、強い感情が湧き上がると、この新しい脳の働きが一時的に弱まり、古い脳の反応に引きずられてしまうことがあります。

なぜ感情が論理を上回るのか?

1. 素早い判断の必要性

人類が厳しい自然の中で生き残るためには、危険を素早く察知し、すぐに反応することが不可欠でした。

たとえば、獲物を見つけたら素早く喜びを感じて追いかけ、敵に遭遇したら恐怖を感じて逃げる、といったように、感情は生存に直結する行動を促してきました。

論理的にじっくり考えていたら、手遅れになることが多かったのです。

2. 経験からの学習

人は、過去の経験から「これは快い」「これは不快」といった感情的な情報を脳に蓄積しています。

似たような状況に直面すると、過去の感情が呼び起こされ、それが論理的な判断よりも優先されてしまうことがあります。

例えば、以前失敗した経験があると、たとえ今回は成功する可能性が高くても、恐怖心から行動をためらってしまうことがあります。

3. 認知の偏り

感情は、私たちの物の見方や考え方にも影響を与えます。

例えば、不安な気持ちでいると、物事をネガティブに捉えやすくなったり、特定の情報ばかりに注意が向いてしまったりすることがあります。

これを「認知バイアス」といい、理性的な判断を妨げることがあります。

感情に流されやすくなる要因

人は以下のような場合に、特に感情に流されやすくなります。

  • ストレスや疲労: 精神的・肉体的に疲れていると、理性的な脳の機能が低下し、感情をコントロールしにくくなります。
  • 強い感情: 喜びや怒り、悲しみなど、感情の強度が非常に高い場合、理性のブレーキが効きにくくなります。
  • 社会的圧力: 周りの人の感情や意見に影響され、自分の本来の考えとは異なる行動をとってしまうことがあります。
  • 性格: もともと感情の起伏が激しい人や、衝動的な傾向がある人は、そうでない人に比べて感情に流されやすいことがあります。

まとめ

私たちが感情に流されるのは、感情が「生存のための強力なツール」として発達してきたことと、脳の中に「素早い感情反応を優先する仕組み」があるからです。

感情は、私たちの行動や意思決定を大きく左右しますが、そのメカニズムを理解することで、私たちは感情とより上手に付き合い、賢い選択ができるようになるでしょう。

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