男女関係なく、職場でお局様ポジションの人が生まれてしまう事はよくある事です。
これには複数の原因があり、最も単純で分かっている原因もあれば巧妙に隠された理由もあります。
これを理解していれば、あなたが上司であればお局様が生まれる前に対処できるので気をつけてみて下さい。
性別に関わらず、特定のポジションや役割に固執し、情報や業務を抱え込む、いわゆる「お局様」的な振る舞いをする人が職場に現れることは、残念ながらよくある事です。
これには複数の原因があり、単純で分かりやすい原因もあれば巧妙に隠された理由もあります。
単に個人の性格の問題として片付けられるものではなく、背景には、過去の経験や心理状態、そして組織の文化や評価制度といった、複数の要因が絡み合っています。
一見すると些細なきっかけから始まることもあれば、巧妙に隠された根深い心理的な理由が存在することもあります。
このメカニズムを理解することは、あなたがマネジメント層なら、状況が深刻化する前に対処し、より健全な職場環境を築くための一助となるはずです。
ここでは、代表的な原因として考えられる2つの側面について、心理学や組織論の知見を交えながら掘り下げてみます。
過去の経験と自己防衛機制|「前職で飛ばされた」経験が招くもの
前職で「不当な評価を受けた」人や、「飛ばされた経験」のある人は自己防衛のために、仕事や情報を共有せずに独占する傾向があります。
広く捉えると、「人間関係で深く傷ついた」経験をしていると考えられます。
この経験は、個人の心に深い影響を及ぼし、心理学的に見ると「自己防衛機制」 の現れと捉えることができます。
過去に受けた心の傷や、組織に対する不信感から、再び自分が不利益を被らないように、無意識のうちに自分を守ろうとするのです。
具体的に、以下のような心理が働く可能性があります。
コントロール感覚の回復
過去に自分の意に反する状況(不当な評価、望まない異動など)に置かれた経験から、「自分の領域」を確保し、仕事や情報をコントロールすることで、失われたコントロール感覚を取り戻そうとします。
情報を独占することは、他者に対する優位性を保ち、自分の存在価値を確認する手段になり得ます。
信頼感の欠如
過去の経験から、上司や同僚、ひいては組織全体に対する信頼感を失っている場合があります。
「どうせ正当に評価されない」「情報は渡したら利用されるだけだ」といった不信感が根底にあると、他者との協力や情報共有を避け、自身の持つ知識やスキルを「武器」として抱え込むようになります。
「希少性」による価値の維持
自分が持つ情報やスキルを他者に共有してしまうと、自身の相対的な価値が下がってしまうのではないか、という不安感を抱くことがあります。
特に、過去に自分の貢献が軽視された経験があると、「自分にしかできない仕事」「自分だけが知っている情報」にしがみつくことで、組織における自身の必要性を誇示しようとする傾向が見られます。
上記のような心理状態にある人は、新しい環境で防衛的な行動を取りがちです。
それは、本人が意地悪だからというよりも、過去の経験から学んだ「生存戦略」なのです。
誤った成功体験|ギバーとテイカーの罠
実は、誤った成功体験が結構多いのです。
「他人から業務を引き取る(奪い取る)ことで評価を得る」という現象は、組織における 「誤った成功体験」 の典型例であり、非常に根深い問題です。
組織行動論の研究者アダム・グラント氏が提唱する 「GIVE & TAKE」 の理論は、この問題を理解する上で非常に参考になります。
彼は、人を他者との関わり方において、与えることを優先する「ギバー(Giver)」、受け取ることを優先する「テイカー(Taker)」、そして与えることと受け取ることのバランスを取ろうとする「マッチャー(Matcher)」に分類しました。
本来、長期的に見れば、他者に貢献し、知識や情報を惜しみなく共有する「ギバー」的な行動が、チーム全体の協力体制や知識の共有を促進し、組織全体の生産性を高めるはずです。
そして、そのような行動が正当に評価されるべきです。
しかし、現実の職場では、以下のような理由から、短期的に「テイカー」的な行動が評価される傾向があります。
短期的な成果や目に見える業績の重視
他人の担当業務や成果を横取りする形で仕事を進めると、一時的にその人の「成果」として目に見えやすくなります。
プロセスや周囲への貢献度よりも、短期的な結果だけを重視する評価制度の下では、こうしたテイカー的な行動が誤って評価されるリスクがあります。
役割分担の曖昧さ
誰がどの業務を担当するか不明確な職場では、本来一番最初に行うべき行動は、役割の領域を明確にするべきです。
しかし現実は、積極的に手を挙げて業務を「引き取る」人が意欲的だと見なされがちです。
その結果、他者の領域に踏み込んで仕事を奪い取ることが、ポジティブな行動として認識されてしまうことがあります。
「政治力」の評価
組織内での立ち回りや交渉が上手く、他者から仕事や情報を引き出すことに長けている人が、「仕事ができる人」と見なされることがあります。
これは、必ずしも悪く無いものの、本来の貢献とは異なる側面が評価されている可能性があります。
上記のような環境で「他人から奪い取ることで評価された」という経験を繰り返すと、その人の中で「これが成功する方法なのだ」という歪んだ成功体験 が形成されます。
本人は「組織のために積極的に仕事をしている」とさえ認識しているかもしれませんが、これは完全な誤認です。
この行動は、一部のメンバーのモチベーションを低下させ、信頼関係を破壊し、結果的にチームや組織全体のパフォーマンスを蝕んでいくことになります。
まとめ|健全な職場環境のために
職場における「お局様」的な存在の出現は、個人の資質の問題だけではなく、過去の経験からくる心理的な防衛反応や、組織の評価システムや文化が生み出す「誤った成功体験」といった、根深い要因が絡み合っています。
マネジメント層は、こうした背景を理解した上で、以下の点に留意することが重要です。
個々の従業員への配慮と成長支援
過去に不遇な経験を持つ従業員に対しては、その心理的な背景に配慮し、安心感を持って働ける環境(心理的安全性の確保)を提供することが重要です。
また、誰もが貢献感を得られ、成長できる機会を提供することで、特定の領域にしがみつく必要性を減らすことができます。
公正な評価制度の設計
短期的な成果だけでなく、他者への貢献、協力、知識共有といった「ギバー」的な行動を正当に評価する仕組みを取り入れることが不可欠です。
テイカー的な行動が評価されるような状況を放置しないことも重要です。
明確な役割分担とコミュニケーション
業務の役割分担を明確にし、オープンなコミュニケーションを促進することで、業務の抱え込みや情報の独占を防ぎます。
表面的な行動だけを見て対処するのではなく、その根本にある心理的・組織的な要因に目を向けること。
それが、誰もが安心して能力を発揮できる、健全で生産的な職場環境を築くための第一歩となります。