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グズな人の心理と行動パターン|行動が遅い人の本当の理由?

身の回りに行動が遅い人、居ると思います。

頼んだ仕事の返事が遅い。集合時間にはいつもギリギリか遅刻。やるべきことを後回しにして、他人がフォローするなど。

そんな「グズな人」が近くにいると、ついイラっとしてしまいます。

口には出さないけれど、「もっとしっかりしなさい」と思ってしまうこともあるでしょう。

しかし、他人にモヤモヤしていた自分も、ふと気づくと似たようなことをしていたりします。

あとでやろうと先延ばしにしているうちに、タイミングを逃してしまったり、余裕があるはずの予定がなぜか詰まって慌てたり…。

「どうしてあの人は行動が遅いんだろう?」と考えていたつもりが、いつのまにか「自分も同じかもしれない」と思い始めます。

ここでは、ただの性格や怠け癖ではない「グズ」の裏にある思考や心理を紹介します。

時間の質が低い

頭の中では「やらなきゃ」と常に思っていても、なぜか動き出せない。そこには「時間」に対する誤解があります。

多くの人は、時間が足りないと感じると「どうにかして時間を増やそう」とします。

たとえば、睡眠を削る、食事の時間を短くする、スケジュールをギュウギュウに詰め込むなどetc。

しかし、この発想は根本的に誤っています。

時間は1日24時間の普遍的なものであり、本当に失っているのは「時間の量」ではなく「時間の質」です。

例えば「プロクラスティネーション(先延ばし)」の研究では、先延ばしする人の多くが完璧主義的傾向を持っており、「理想的な時間が確保できないと手をつけたくない」と感じてしまいます。

つまり、十分な「まとまった時間」を捻出できないことが、行動の遅れにつながっています。

そしてその背景には、「量を確保できない=意味がない」という、非効率な時間感覚があります。

このような誤解に陥ると、「今この10分では意味がない」としてスマホを見たりSNSに逃げたりします。

一方、「この10分でアイデアメモをひとつ残そう」と考えれば、時間の「質」が上がり、達成感を得られます。

心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した「フロー理論」では、人は集中して何かに取り組んでいるときに最も時間の充実感を感じるとされています。

つまり、時間の価値は「どれだけあったか」ではなく「どう使ったか」で決まります。

時間を「消費的」に使うと、どんなに長くても虚無感が残ります。

逆に「投機的」に使えば、短時間でもリターンがあると感じ、満足感が高まります。

「グズな人」は、足りない時間をかき集めようと焦るあまり、実は「時間の質」をどんどん下げてしまっているのです。

「もっと時間が欲しい」という願望は、人間として自然ですが、その発想にとらわれ続ける限り、永遠に満たされることはないでしょう。

「空いた10分を質を上げるためにどう使えるか?」投機的に使われた時間は、たとえ短くとも、心を満たし、グズの心理から脱出するための鍵となります。

作業時間の見積もりが甘い

「今日は完璧なスケジュールを組んだ」 そんな満足感に浸りながら始めた一日が、なぜかいつも夕方にはバタバタしているのを見かけます。

結局タスクは終わらず、また翌日に持ち越される──。

この背景にあるのは、自分の作業時間を正確に見積もれない認知の歪みです。

心理学ではこれを「プランニングの誤謬(Planning Fallacy)」と呼びます。

ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらの研究によれば、人間は未来のタスクに対して一貫して楽観的に時間を見積もる傾向があると言います。

つまり、人は「このくらいの時間でできるだろう」と無意識に理想的なシナリオだけを前提にしてスケジュールを立ててしまうのです。

多くの場合、現実には作業は予定通りには進みません。資料が足りない、話が食い違っていた、想定外の打ち合わせが入った…。

こうした「時間リスク」が日常には山ほど潜んでいます。災害のようなハザード(突発的な危機)ではなく、日常的な「ズレ」であり、リスク管理という視点で扱う必要があります。

この点について、日本の「カイゼン士」として知られる横田尚哉氏が提唱する「スケジューリングには1.4倍の余裕を持たせるべし」という考え方は興味深いものです。

これは、QRA(定量的リスク分析)という手法を使って、2000回のシミュレーションから導き出された数値であり、まさに科学的根拠に裏打ちされた「見積もりの現実的修正値」と言えます。

にも関わらず、人はなぜ予定をキツキツに詰め込みたがるのでしょうか。

そこには、時間に対する誤認と、自分への過信があります。

楽観バイアスとも呼ばれるこの心理は、自分は例外的にうまくやれる、という根拠のない自信を生み出しています。

結果、時間の「バッファ」を削り、本来想定すべきリスク時間を無視してしまいます。

グズの心理には「今度こそはうまくいくはず」という希望的観測による反復失敗があります。

問題は能力ではなく、時間を過小評価する思考癖こそが、グズの本質です。

だからこそ、予定通りに人生を進めるための保険として、「1.0」の時間見積もりではなく「1.4」という現実に根ざした思考を身につけるべきです。

シングルタスクの固執

「やる気が出ない」「気分が乗らない」そんな理由で手が止まるとき、「もう少し頑張らなきゃ」と自分を責めるかも知れません。

この停滞の原因は意志の弱さではなく、「シングルタスク」に過度に依存した働き方にあります。

グズの心理には、「目の前の作業が進まない=今は何もできない」という極端な思い込みが潜んでいます。

脳科学的に言えば、タスク切り替えへの心理的抵抗であり、「今やっていることしか選択肢がない」と思い込んでしまう状態です。

しかし、人の脳は思ったより柔軟です。

心理学者バーバラ・オークリーが提唱する「フォーカス・モード」と「ディフューズ・モード」の切り替え理論によると、人間の集中には波があります。

集中が続かないときに無理をすると、脳の疲労が蓄積し効率が下がります。一方、関連性の低い別タスクに一時的に切り替えることで、むしろ創造性や集中力が回復するという研究結果もあります。

たとえば、数学の勉強に飽きたら英語をやる、という「勉強で休憩を取る」スタイル。これは単なる「気分転換」ではなく、脳のモードを切り替える戦略的マルチタスクです。

重要なのは、「切り替える」ことであって、「同時にこなす」ことではありません。

つまり、マルチタスクとは「並行処理」ではなく「順次切り替え」と言えます。このアプローチは、タスクを強制的に押し進めるグズな思考を避ける手段にもなります。

Aの作業が停滞したら、休憩ではなくBの作業に移る。こうすることで「作業をしていない自分」に対する罪悪感を抱かずに済み、脳を止めずに生産性を保ちます。懸念されるのは「Aに戻るときのロス」でしょう。

たしかに、別の仕事に移れば、前の作業状態を思い出す手間が生じますが、工夫次第でカバーできます。

たとえば「作業メモを残しておく」「意図的に作業の途中で切り上げておく(ツァイガルニク効果)」といった方法です。未完了のタスクは脳内に「気がかり」として残り、再開時に自然と集中しやすくなります。

つまり、グズの心理には、「一つのことに固執し、柔軟に切り替える余地を自ら閉ざしてしまう」部分があり、そこにこそ停滞の根があります。

常にやる気を出す必要などありません。

むしろ、やる気の波に合わせてタスクを乗り換えることで、継続的な集中を保てるのです。

完璧主義による先送り

「もっといい形で仕上げたい」「ちゃんと準備が整ってから始めよう」そんなふうに思ったまま、気がつけばタスクが山積みに──。

これは決して怠け者の心理ではなく、むしろ真面目で完璧主義な人ほど陥りやすい罠です。

この現象は「完璧主義的先延ばし(Perfectionistic Procrastination)」と呼ばれます。

高い理想を持つがゆえに、中途半端な成果を許せず、着手自体を先延ばしてしまうのです。

これは、メンタルヘルスの分野でもよく知られたストレス要因の一つであり、認知行動療法(CBT)では「全か無か思考」として指摘されることがあります。

多くの著書を執筆している佐々木正悟さんも「完璧を目指すがあまり膨大な時間が必要になり、その時間が取れずに手をつけられない」と指摘しています。

つまり、高い目標ほど、それに見合う時間が必要になります。しかし、現実にはまとまった時間はなかなか確保できないため、「今は無理」と判断して手が止まるのです。

非常に皮肉な話です。本来は「やる気」があるからこそ手がつかない。つまり、やる気が邪魔をして行動が起こせないという逆説的な状態です。

現代のビジネス環境では「1時間かけて100点を取る人よりも、10分で60点を取る人」が求められる傾向があります。

情報がめまぐるしく変わる現代では、スピードこそが最重要のスキルなのです。

確かに、「スピードはクオリティに勝る」と言い切ってしまうのは極端に思えるかもしれません。

ですが、少なくとも「完璧」を目指して何もしないよりも、「そこそこの成果」をすばやく出せる人の方が、実際には成果を出し続けることができます。

ここで私たちが学ぶべきは、「完璧」ではなく「適切な水準」を見極める姿勢です。

最初から完璧を目指すのではなく、「まず出す」「後で直す」という発想の転換が、グズから抜け出す第一歩となります。

言い換えれば、「完璧にやる」が目的ではなく、「完了させる」が目的になるべきです。

自己管理(身体・心)不足

「グズ」という表現は、単に行動が鈍いだけでなく、自分をコントロールする意志の弱さ、つまり心の肥満も原因です。

「また先延ばしにしてしまった」「やらなきゃいけないのに動けない」そんな自分に嫌気がさすことはありませんか?

でも、その状態を単に「怠け」や「根性不足」と片づけてしまうのは早計です。

むしろ、グズとは一種の「心の肥満」状態といえます。

心の肥満とは「必要以上の情報・感情・誘惑を抱え込み、自分をコントロールできない状態」です。

たとえば、食欲に負けてつい間食してしまう──これを心理学では「衝動制御の失敗(impulse control failure)」と呼びます。

これは、SNSを見続けてしまう、やるべきことを後回しにしてゲームに手を出してしまう、といったグズの行動とまったく同じ構造を持っています。

目先の快に引っ張られて、自分の目標に沿った行動を選べない。まさに、心が肥満して身動きがとれなくなっています。

実際に、『年収1500万円以上の人の33.7%が体重やカロリー制限を意識しているのに対し、年収400万円台の人ではその割合が23.3%にとどまる』という調査結果があります。

これは単に体重の問題ではなく、自己統制力(self-control)の差が、生活習慣だけでなく仕事のパフォーマンスや報酬にも結びついていることを示唆しています。

ここで注目すべきは、「太っているかどうか」ではありません。

「自分を意識的にマネジメントできているかどうか」という視点です。

自己統制力は、心理学的には「グリット(やり抜く力)」や「セルフレギュレーション」とも呼ばれ、目標達成や学業成績、仕事の成功と強く関係していることが、複数の研究から明らかになっています。

さらに、「体調がパフォーマンスに影響する」という認識が甘いことも、心の肥満を助長します。

仕事の効率や集中力は、睡眠・運動・栄養といった身体的要因に大きく左右されます。

にもかかわらず、「忙しいから」といって体をないがしろにしてしまうと、結果的に心のバランスも崩れ、より一層行動しない状態を引き起こしやすくなります。

言い換えれば、グズとは「外からの誘惑に流され、内なる秩序を失っている状態」。まさに、制御を失って過食してしまう肥満の構造と同じです。

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