文章を難しく書けば書くほど知的に見える。
そう考える人は少なくありません。
しかし、複雑さを誤った場所・量で使うと、読者は内容に辿りつく前に疲れ、面白さを感じる前に離脱してしまいます。
この記事では、複雑さが読者に「面白くない」と感じさせる理由を解説しつつ、読みやすさと深みを両立させるための具体的な方法を紹介します。
構造のつくり方から文のリズム、具体語の使い方まで、すぐ実践できるチェックとテンプレートをまとめています。
なぜ複雑な文章は「面白くない」と感じられるのか
読者は「理解できない」から文章をつまらないと感じるわけではありません。
本当の理由は、理解するために必要なエネルギーが過剰に奪われてしまうことにあります。
文章を読むとき、読者は以下を同時に処理しています。
- 今何が起きているか
- 登場人物や筆者が何を感じているか
- 次に何が起きるのか
この処理には集中力が必要ですが、比喩の多用や複雑な語彙が続くと、脳は「理解そのもの」に能力を持っていかれ、物語や文章の体験に集中できなくなります。
理解にエネルギーを奪われる仕組み
人間の脳は「情報処理の負荷」が高いほど、内容ではなく「形」に意識を奪われます。
難解な表現が続くと、読み手は「何が言いたいのか?」を考えることに集中し、感情や物語の流れを感じる余裕がなくなるのです。
目的や方向性が見えないと読者は迷う
文章における「方向性」の欠如も、読者の負荷を増大させる原因です。
目的や葛藤よりも設定や細部が目立ってしまうと、読者は「何を期待して読めばいいのか」を見失います。

面白い文章・物語は「シンプルな核」で成立する
どれほど世界観が広がる文章であっても、面白い文章には共通する「核」があります。
それは以下の4つのラインです。
- 目的:何を望むのか
- 障害:何が邪魔するのか
- 選択:どう対処するのか
- 結果:その選択でどう変わるのか
物語や文章を支える4つの基本ライン
この4つが明確であるほど、読者は文章の方向性を素早く掴めます。
骨格がシンプルであれば、その上の複雑さ「比喩、象徴、伏線、哲学的」な要素など、しっかり機能しやすくなります。
複雑さは「装飾」であり「骨組み」ではない
複雑さは文章を豊かにする要素ですが、それ自体が物語の核になるわけではありません。
複雑さを「どこに」「どれだけ」置くかを意識することで、読者の理解と没入を両立できます。
複雑さを「魅力」に変える4つの実践チェック
ここでは、複雑さを整理しつつ文章の魅力を高めるためのチェックを紹介します。
1. ラダー検査(1分で核を確認する方法)
文章が読みにくいと感じたら、次の4つを1分以内で書き出してみてください。
- 目的
- 障害
- 選択
- 結果
これが書き出せない部分には「核が弱い」可能性があります。複雑さを減らすべきポイントです。
2. 具体語を増やし「感じられる文章」にする
抽象語が続く文章は、読者の頭の中で情景が再生されません。
最低でも1ページに「視覚・聴覚・触覚・匂い・味」のうち5つ以上の具体語を入れるだけで、文章は一気に立体的になります。
例:
抽象:彼は不安だった。
具体:彼の指先は冷たく震え、呼吸が浅くなっていた。
3. 文のリズムを意図的に操作する
文章には「音楽的な流れ」があります。
リズムを設計すると、読者は自然に感情移入しやすくなります。
- 緊張を高めたい → 短文
- 余韻を持たせたい → 長文
- 視点が変わる → 段落冒頭で短い説明

4. 因果関係を明確に示す
文章の説得力は、因果がはっきりしているかどうかで大きく変わります。
「だから」「しかし」「なのに」などの接続を意識し、動詞レベルで因果を示すのがポイントです。
例(改善):
悪例:彼は遅刻した。雨が降っていた。
改善:雨が激しくなったため、彼は結果的に遅刻した。
よくある「複雑さの罠」と回避法
複雑さを扱う際に多くの人が陥りがちな罠と、その回避法をまとめます。
設定を盛り込みすぎると読者は離れる
序盤から説明を重ねすぎると、読者は「体験」する前に疲れてしまいます。
最初は小さな目的・小さな衝突・小さな結果の3つだけで十分です。
比喩の多用で意味がぼやける
比喩は一文につき一つまで。
「意味を強化するための比喩」だけを選び、目的のない比喩は削ること。
珍しい語彙を使いすぎる問題
語彙の珍しさは文章の価値ではありません。
読者が理解できる速度で読み進められるよう、言葉の選択は慎重に行いましょう。

文章が一気に面白くなる「仕上げのステップ」
文章の面白さは、特別な才能ではなく「構造の理解」と「視点の調整」で大きく向上します。
読者が自然に没入する文章構造の作り方
目的を早めに提示し、関係性を動かし、小さな勝敗を積み重ねる。
これらを繰り返すだけで、読者は気付けば文章に没入します。
よくある質問(FAQ)
Q. 複雑な文章を書いてしまう原因は?
A. 核が整理できていないことが多く、情報量で補おうとするためです。まず目的と障害を短文で言語化しましょう。
Q. 比喩はどれくらい使っていい?
A. 一文につき一つが基本。目的が「強調」「比較」「象徴」のどれかに当てはまる場合だけ使います。
Q. 読みやすくするための最も簡単な改善点は?
A. 具体語を増やすことです。抽象 → 具体 に変えるだけで劇的に変わります。
Q. 文が間延びしてしまうのはなぜ?
A. リズムが単調だからです。短文と長文を意図的に混ぜて調整しましょう。
まとめ|複雑さは「敵」ではなく「配置の問題」
複雑さそのものは悪ではなく、文章を豊かにするための大切な要素です。
重要なのは、核を明確にしたうえで「どこに」「どれだけ」複雑さを置くかという設計です。